成果を改善する
吉岡 佑
佐賀県出身。GMO グループ、アナグラム株式会社などの広告運用専門会社にて大規模広告の運用に従事した後、2021年に当社に参画。
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GDN、YDNの設計と運用
リスティング広告は日々の運用と改善がものを言う世界です。ここでは広告ランクの改善や予算のアロケーション、ターゲットボリュームの調整、撤退ラインの策定、結果の出ていない箇所の特定など成果の改善につながる作業についてお話します。
結果が出ていない箇所を特定する
リスティング広告は成果が目に見えやすいのが特徴です。広告費をいくらかけて、どれぐらいの成果が得られたのかを日々追っていくことが、大きな意味を持ちます。上手くいかない箇所を早期発見することで、ビジネスを前に進めることが可能です。
成果が出ていない箇所を特定する
成果が出ていない箇所を特定するためには、アカウント構成を大局的にみる必要があります。まずアカウントから始めて下へ向かって「アカウント単位で問題はないか?」→「キャンペーン単位で問題はないか?」→広告グループ……という具合に階層順にチェックしていきます。この過程で悪い箇所が最小単位で見つかるはずです。
原因が特定されたら、因数分解して何が要因かを突き止めます。
結論として、CPA(顧客獲得単価)を改善するためには、クリック単価を下げるか、コンバージョンレートを上げる必要があるということが分かります。逆に言えば、表示回数やクリック数を上げても改善しません。
広告ランクの改善
広告ランクが上昇すれば、より少ない予算で広告が上位表示されます。広告ランクの改善方法として考えうる施策は以下の通りです。
(広告ランクの改善施策)
- 推定クリック率の改善
- 広告の関連性を上げる
- LPを改善する
- 入札単価の引き上げ
- 適切な広告表示オプションの設定
推定クリック率の改善
推定クリック率とは、過去の掲載結果データに基づいて推定されるクリック率の指標です。あくまで予測値ですから、実際のクリック率とは一致しません。広告の表示を決めるオークション時に使用されます。
広告ランクを左右する要因の一つが「広告の推定クリック率」です。キーワードの推定クリック率が高くなるほど、広告の推定クリック率も高くなり、広告ランクが上昇して広告が上位に掲載されます。
広告の関連性を上げる
広告文を変えなくても、検索語句に対応させるキーワードを改善することで、広告の関連性を上げることができます。このことが広告ランクを押し上げる結果につながり、ひいてはクリック単価(CPC)の改善につながります。
たとえば[エアコン 最安]という検索ワードに対して広告を対応させるとき
- エアコン 販売店
- エアコン 地域激安店
のふたつだったら、下の「地域激安店」の方が関連性が高いため、広告ランクが高いはずです。特定の検索語句に対してどんなキーワードと紐付いた広告を表示させるか、という部分は改善可能です。
LPを改善する
リスティング広告では、LPの改善が広告ランク向上の施策の中心になります。
広告ランクが低くなっている原因、あるいはCVRが低い理由は、単にLPのデザインが分かりにくいからかもしれませんし、構成が良くないのかもしれません。説明が長すぎるのかもしれませんし、アクションを促すボタンの位置が悪いのかもしれません。
入札単価の引き上げ
広告ランクは以下の方程式で求められます。
広告ランク=入札単価 × 品質スコア+広告表示オプション
広告ランクには品質スコアが大きな影響を与えますが、入札単価(*註)が高ければ有利なことは確かです。入札単価が低すぎれば競合の広告が優先されてしまうでしょう。しかし広告予算には限りがあるはずですので、バランスを考える必要があります。
なお広告とは直接関係ない企業努力の部分ですが、商品の価格改定を行うことが、コンバージョン率改善に効果を発揮する場合もあります。
*入札単価:クリック単価(CPC: 広告1クリックあたりの単価。運用の結果請求される。)の上限金額を指定する単価。広告主が広告を出稿する際にあらかじめ設定する。
適切な広告表示オプションの設定
広告表示オプションは「広告表示オプション(アセット)を活用する」でもご説明した通り、広告文とは別に電話番号や住所などを表示できる機能です。広告枠が大きくなることで画面占有率が上がり、ユーザーの目に留まりやすくなります。なにより効果的なのは、広告表示オプションを追加することで広告ランクが上がりやすくなることです。
ただし広告表示オプションは、一定以上の広告ランクがないと表示されません。
クリック単価(CPC)の改善
クリック単価はオークションで決まりますが、入札金額で争うわけではなく広告ランクで決まってきます。前述の通り、広告ランクは「入札単価×品質スコア+広告オプション」で計算できるため、品質スコアを上げればクリック単価は下がります。
品質スコアを決める要素とは、以下の3点です。
(品質スコアを決める要素)
- クリック率(CTR)
- 入札キーワードと広告文の関連性
- LP内容との関連性とユーザビリティ
つまりクリック率を上げつつ、「広告文の改善」などクリエイティブな部分に磨きをかけるという施策が考えられます。
CVR(コンバージョンレート)の改善
CVR(コンバージョンレート)とはウェブサイトが目的としているコンバージョンの成約割合を表す用語です。CVRを基準に広告の効果を改善しようとするとき、二つの方法が考えられます。
1)CVRの数値が既に一定以上である場合
セッション数を増やすことで、コンバージョン数が増加します。
2)CVRの数値が低い場合
セッション数を増やしても効果は薄いでしょう。CVRを向上させる施策が必要です。
CVRを向上させる施策として有効なのは「検索ユーザーの求めているものと広告で訴求しているもののギャップを埋める」ことです。ユーザーの立場に立った訴求ができていないと、どうしてもCVRは下がります。ユーザーの検索意図と広告でアピールしたいターゲットを近づけていくために、広告文を改善する必要があります。
ユーザーが検索を行うとき、アカウント内で反応するのはキーワードではありません。システムは、まず広告を探します。検索語句と合致する「キーワードと紐付いた広告」を検出するのです。そこから広告ランクが高いものを抽出したり、除外指定されたページを外したり、などといった作業を経てオーディションに掛けます。
そうして無事広告が表示されても、訴求の仕方がよくなければコンバージョンに至りません。キーワードが合致していても、検索ユーザーの求めているものを提供できなければ充分とは言えないのです。
リスティング広告の改善
これまでも繰り返し述べてきたように、リスティング広告の世界は自動化が進んでいます。
- 入札→自動化
- ターゲット選定→自動化
- クリエイティブ=広告文→ここしか改善できる部分がない
広告文の改善方法は体系化されていません。要は「誰に、何を、どのように伝えるか?」という部分を極めていく作業なのですが、テクニカルにノウハウを語ることがむずしく本のなかでは抽象論になりがちです。具体的な施策に関しては「お問い合わせください」「現場で話しましょう」的な世界になってしまうことが少なくありません。
なかには先祖返りしたかのように、改めてマーケティングの初歩の初歩の話をしている本もあります。つまり深掘りしづらい部分なのです。
現在主流となっているレスポンシブル検索広告は、15本の見出しと5本の説明文をシステムが自動的に組み合わせ、最適なユーザーに表示するという仕組みになっています。つまり人の手で改善するのがむずかしいのです。
テクニカルな手法を手動で試す
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(自動化)
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マーケティングの基本に還る
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改めてターゲットやメッセージを考える
結局「最初にどれだけ考えられるか?」が大事になってきます。リスティング広告運用の現場では、PDCAがうまく回らないことが往々にしてあります。Plan→Do→Check→Actionの連環が途切れてしまい、ActionからPlanに戻れない状況がしばしば発生します。
そこでとにかく少しでも多くのプランを事前に考えておくことが重要になってきます。アクションからプランに戻れなくても、つぎのプランで対処するのです。
予算のアロケーションを決める
予算と目標についてお話しましたが、ここでは媒体間の予算配分(アロケーション)の話をします。コンバージョンを上げる施策としてキーワードの追加、広告文の追加、ターゲティングの見直しなどが考えられますが、アロケーションを調整するだけでコンバージョン率が改善することがあります。
広告費の予算構成比: 成果と予算から考える
媒体間の予算を調整するのと同時にCPA(顧客獲得単価)も調整する、たとえばディスプレイ広告の予算を下げるのと同時にCPAも下げる、そのかわりSNS広告の予算を上げてCPAが上がっても構わないので件数を取りに行く……などの操作を通じて全体のコンバージョンを上げつつCPAの数値を下げるという方向性を目指していくのです。
ネット広告の掲載媒体が幅広くなっている今日、効率的な予算配分を考えることは重要です。広告予算のアロケーション(予算配分の最適化)に関して、アプローチがはふたつ考えられます。
- 運用していくなかで予算と成果から最適な構成比が結果的にでき上がる
- 想定しうるターゲットを前提に、理想の構成比を組む(この形で結果を出すにはどうしたら良いのか考える)
1は機会損失は高まりますが、初期投資リスクは減らせます。つまり施策としては、顕在顧客を対象としたリスティング広告から始めるので潜在顧客を取りこぼしますが、検索してくれる顕在的なユーザーを獲得しやすいので無駄撃ちは減らせます。数字を見ながら手探りで運用するのでアメーバ型といえますが、立派な戦術といえます。
2の方が機会損失は減らせます。ただし初期段階では出費が必要かもしれません。
1でも2でもどちらのアプローチでも構いませんが、潤沢な予算がないときは自ずと比率が決まってくることもあるでしょう。予算とユーザーのボリュームなどさまざまな条件のなかで試行錯誤していくしかありません。間違いなく言えることは、自社の予算がどういう構成比になっているのか、常に把握しておく必要があるということです。
ターゲットのボリュームを調整する
リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告にはそれぞれ固有の特徴があります。その特徴に応じてターゲットのボリュームがある程度決まってきてしまうのが実情です。
ディスプレイ広告では条件さえ緩めれば、ユーザーボリュームを広げることができます。また配信面をふやそうと思えば、容易に広げられます。
一方SNS広告では、広告と相性の良い媒体にターゲットユーザーが大勢いればいいのですが、そうでなければターゲットを広げるのに限界が出てきます。配信面が増やせるかは媒体次第ですが、SNS広告は配信面が限られているので競争が激しい世界です。競合性の高さは成果を左右しますから、きちんと見極めた上で、広告全体におけるSNS広告でのユーザーボリュームを考える必要があるでしょう。
つまりリスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告それぞれのユーザーボリュームは
- 適切なリスティングのボリューム
- 適切なSNSのボリューム
- ディスプレイ広告でどこまで広げるか
という形になり、結局ディスプレイ広告がもっとも予算を投入しやすい形態になります。
広告を出す必要があるか、定期的にチェックする
広告を運用する上で大切なのは、広告をつづける必要があるか、定期的な確認を怠らないことです。計画の段階で仮説を元にプランを立てていると思います。Chapter 42の「#リスティング広告の改善」でお話した通り、プランはあらかじめ多めに立てておく必要があります。
広告を打ち始めたら、成果をチェックして次のアプションを起こす、いわゆるPDCAのサイクルに入るのですが、プランと実際の成果の間にギャップが生じ悩むことがあると思います。どこかのタイミングで「この仮説は間違っていた」と見切りをつける必要がある訳ですが、どこまで許容できるかが正否の分かれ目です。
たとえば事前の調査でTwitterにはターゲットになるユーザーが一定数いることが分かっているとします。ところが実際に配信してみたところ、思うような手応えが得られなかったとしましょう。Twitterという媒体に割く構成比は下げるべきなのでしょうか?
成果から見た場合、とうぜん下げるべきでしょう。しかし事前のリサーチを元にしたプランから考えた場合、ここは踏ん張りどころです。つまり「ターゲットユーザーがいることは分かっている。きっとやり方が悪いだけだ」という判断が働くはずなのです。ときにはプランを信じて、現状が芳しくないときにもむやみに調整に走らず、構成比を維持することも取りうる選択のひとつになります。
とは言え、元の仮説自体が誤っている場合は良くないループに陥るしかなくなります。こうして身動きがとれなくなる前に、あらかじめ撤退ラインを設定しておくことが重要です。と同時に打ち手が一つしかないと現在のプランのアップグレード版で対応するしか術がなくなりますので、第2、第3の矢を考えておきましょう。
(事前に決めておくべきこと)
- CPA(顧客獲得単価)
- 広告費の総額
- 人的リソース
- 撤退ライン
→この一線を超えたら、違う媒体に予算アロケーションしていく
→事前に第2、第3の矢を考えておく。次の手だてがないと損切りのタイミングが掴めない。
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