Sunset in the mountains

GDN、YDNの設計と運用

吉岡 佑

佐賀県出身。GMO グループ、アナグラム株式会社などの広告運用専門会社にて大規模広告の運用に従事した後、2021年に当社に参画。

前の記事

リスティング広告(検索連動型広告)の設計と運用フロー|①キーワード選定について

ディスプレイ広告を、広告配信の対象の拡げ方という面から探っていきます。同時にコンバージョン確度の高いユーザーに対して再アプローチするリマーケティングについても見ていきましょう。

GoogleアプリキャンペーンとYouTube広告についても軽く触れておきます。

人のマーケティングと面のマーケティング

検索連動型広告についてご説明したPart2では、人の手で考えるべき要素として「ターゲティング、キーワード、広告文」の話をしました。ではディスプレイ広告におけるターゲティングとはどのようなものでしょうか? この記事ではこのテーマを中心に話を進めていきます。

 ディスプレイ広告におけるターゲティングは大きく二つに分かれます。

  • 人のターゲティング
    • 新規
    • 再訪: リマーケティングの対象
  • 面(配信面・広告枠)のターゲティング

人のターゲティング

新規(検索行動ターゲティング)

 興味関心、ユーザーの属性、行動履歴などに基づいてユーザーリストを作成します。システムに任せ、自動化した方が効率的なターゲティングができるようになってきましたが、行動履歴に基づいたターゲティング(能動的なユーザーを捕まえる)に関しては、まだ人の頭で考える価値が十分にある分野です。

CV

○ 大事←リスト化

○ どうでもよい

○ 意外と大事←リスト化

○……コンバージョンポイント

システムによる自動化がどんどん優秀になっています。その理由として、かつてはかなり細かくターゲットを分けていましたが、現在はある程度ターゲットをまとめるようになったことが考えられます。検索連動型広告におけるHAGAKUREのように、構造をシンプルにしてデータを蓄積した方が成果を上げやすいのでしょう。

再訪(リマーケティング)

 気になる商品を検索して販売サイトにアクセスしたら、後を追いかけてくるかのようにその商品の広告が行く先々のサイトで表示されるようになった……。そんな経験はありませんか? これがリマーケティングです。ディスプレイ広告は広く浅く広告を配信し認知を高めるのが一般的ですが、リマーケティングは確度の高いユーザーに集中して配信します。

 GDNではリマーケティング、YDAではリターゲティングと呼んでいますが、本稿ではリマーケティングで通します。

 chapter19の「#ユーザーリストを活用したリマーケティング」でお話した通り、リマーケティングとはCookieを利用したトラッキングによってウェブサイトやアプリを訪れたユーザーを特定し、彼らに対して関連する広告を配信する仕組みです。

 ウェブ上で商品を購入する場合、いくつものページを見比べて迷いながら決めていくのが一般的です。一度の訪問で購入に至るユーザーは少数です。逆に比較作業が進んだ段階で再度アプローチすれば、購買意欲を喚起しやすくなります。

 リマーケティングを設計するためには、ユーザーがどのページに来たのかを把握し、ユーザーリストを作らなければなりません。

  • どのページに来た人をリマーケティングするのか
  • どういうユーザーをリマーケティングするのか

 そこにさまざまな条件を加えてユーザーリストを作成する必要があります。

  • カートに商品を入れた
  • フォームのあるページを訪問した(フォームに記入する1歩手前の段階)

   ……。

 どの段階まで進んだユーザーにリマーケティングすればコンバージョンに至りやすいか。基準を決めていくのが大切です。当然ながら成約の一歩手前まで進んだユーザーが一番確度が高い訳ですが、ターゲットを絞りすぎるとコンバージョン数が稼げません。

コンバージョンに至るまでのプロセスに基づいたユーザーリスト作成の必要性

 広告目的(コンバージョン)に到達するまでに、ユーザーはどういうプロセスを経るのでしょうか?

例)

コンバージョン=フォームを送信……リストを作成

フォームに入力……リストを作成

フォームに訪問……リストを作成

フォームのボタンをクリック……リストを作成

読了率……リスト化を作成

サイトを訪問……リストを作成

 前述のアトリビューションとほぼ同じ考え方だとお気付きでしょうか? コンバージョンに至るまでにさまざまな接点(コンバージョンポイント)があります。カスタマージャーニーの過程でたくさんのリストが作成されますが、全てのリストは必要ありません。どのリストをつかうか、人が判断する必要があります。データから分析してコンバージョンにつながるユーザーの行動を考えるのが、リスト設計の根幹となっています。

 なお現在は自動化が進んでいるため、リマーケティングリストを作らなくても機械学習でコンバージョンしやすい人に広告を配信することも可能です。とはいえ現段階では、人力でユーザーリストを設定する方が、より早く成果を上げられる傾向にあるようです。

面のターゲティング

 リマーケティング配信が出来る主な媒体(配信面)は以下の通りです。

  • GDN
  • YDA
  • Facebook広告
  • Instagram広告
  • Twitter広告
  • LINE広告
  • SmartNews
  • アプリ
  • YouTubeなど

面をターゲティングする方法は、主に3つあります。

(面のターゲティング方法)

・プレースメント

 手動でURLを指定して広告を配信、または除外する。

・トピック

 無数に用意されたカテゴリから選ぶことで、カテゴリ内に分類されたサイトに広告を配信します。

・キーワード

 5〜50個程度のキーワードを登録し、それに沿ったWebサイトに広告を配信します。

*「トピック」と「キーワード」をGDNは特に「コンテンツターゲティング」と呼んでいます。chapter33「#サーチターゲティングとコンテンツターゲティング」で詳しく説明します。

 面のターゲティングは人のターゲティングより自動化が進んでおり、広告の出し方も多様化しています。どのメディアに出稿するかは人間が決める仕事です。メディアの収益性と広告の成果の間には齟齬があります。不必要なサイトやアプリ、特定の動画は手動で配信リストから除外しましょう。

オーディエンスを増やす

顕在化しているユーザー(見込み客)を増やす重要性

前章の「人のターゲティング」で触れたユーザーリストは、いわば顕在化しているユーザーのリストです。このユーザーが増加すれば広告の効率が向上するはずです。ではどうすれば増やせるでしょうか?

ひとつにはユーザーリストに加えるユーザーの行動履歴の基準を緩めることです。あるいはLPページを読了率の基準を下げるということも考えられます。

別の方法として考えられるのは、広告の配信を開始する前に、予め自社のウェブサイトを訪問したユーザーの行動を計測しておきデータを蓄積しておくことです(トラッキングタグを仕込んでおく必要があります)。

さらに別の手段として次節で紹介する「類似ユーザー機能」や「アフィニティカテゴリ」の活用があります。

類似ユーザー機能を知る

属性、興味、関心がユーザーリストに含まれる見込み客の層と類似している未知のインターネットユーザーがいたら、潜在的な見込み客になると考えられます。このクラスターに広告を配信する機能が「類似ユーザー機能」です。

自社のサイトに訪問ユーザーの情報がなくても、GDNやYDAの情報を使って人のターゲティング(年齢、性別、居住地域、年収、子供の有無など)をすることが可能です。

属性、興味、関心のみならず「〇〇のページを見たユーザーに類似するユーザー」「過去にコンバージョンしたユーザーに類似するユーザー」等の条件でもリストアップできます。

ただし世の風潮としてユーザーリスト自体が作りづらくなってきています。当然類似ユーザーのリストも作れなくなりつつありますから、近い将来「類似ユーザー機能」は消滅するでしょう。ユーザーリストの規制に関しては、次節「ITP(トラッキング防止機能)の影響について」をご覧ください。

ITP(トラッキング防止機能)の影響について

 2018年ごろからプライバシーの保護を理由にCookie規制の波が起こり、サードパーティCookieを完全にブロックしてしまうITP(トラッキング防止機能)が盛り込まれるようになりました。ウェブサイトでしばしば「Cookieの使用に同意しますか?」というポップアップに遭遇しますが、これはITPに配慮した動きです。ユーザーの同意なしに、広告にトラッキング情報を利用させられなくなったのです。これはつまり、容易にユーザーリストを作らせない動きが沸き起こっているということです。

 ITPの影響は身近な製品にもみられます。iPhoneなどのApple製品ではユーザーの行動履歴を追えないことが知られています。同社はITPを積極的に推進

しており、「あなたは今日3,000歩歩きました」、「あなたの生理は3日後に来ます」などといったユーザーのプライバシーや健康情報の漏えいを防げるというのが、製品の売りになっています。

 ITPにより、一昔前に比べるとユーザーリストの効力が弱まっているのは確かです。昔はcookieがなかったのでユーザーのメールアドレスを登録してもらい、ビジネスに役立てるのが一般的でした。cookie規制の影響で、再びメールアドレス取得への揺り戻しの動きが出てきています。その一方で、個人のプライバシーに踏み込まずにターゲティングが可能な自動化へのシフトが強まる傾向も見られます。

アフィニティカテゴリ

見込み客を増やすさらなる施策がアフィニティカテゴリです。リマーケティングや類似ユーザー機能が自社のLPページへの訪問を基準にユーザーリストを作成しているのに対し、アフィニティカテゴリはGDNやYDAが提供するユーザーリストに基づいています(YDAでは「興味関心ターゲティングと呼ばれています)。

このリストはオンライン上の行動や関心に基づいてユーザーを特定のカテゴリーに分類しています。カテゴリーは以下の通りです。

 (最新のアフィニティカテゴリの例)

  • 乗り物、交通機関 » 二輪 / 四輪マニア » 高性能車、高級車マニア
  • テクノロジー » ハイテク派 » オーディオ好き
  • スポーツ、フィットネス » スポーツファン » 野球ファン
  • ショッピング好き » 買い物好き(店舗タイプ別)
  • ニュース、政治 » ニュース好き » ローカル ニュース好き
  • メディア、エンターテイメント » 映画好き » 南アジア映画派
  • メディア、エンターテイメント » ゲーマー » アクション ゲーム好き
  • ライフスタイル、趣味 » ライブイベントに頻繁に参加
  • フード、ダイニング » 料理好き » 簡単クッキング派
  • 銀行、金融 » 投資家

アウトドア好きなユーザーをダーケティングした場合、そのユーザーがアウトドア関連のサイトを見ていないときも広告を配信することが可能です。無数のカテゴリーがありますが、自動化されている部分が非常に多いので、運用者の方で突き詰めて設定しなくとも大丈夫です。単純に「この部分が自動入札に使われている」ということさえ押さえておけば良いでしょう。

サーチターゲティングとコンテンツターゲティング

ここではよく似た施策を引き比べてご説明します。やはり見込み客の増加を狙う施策です。

  • サーチターゲティング:(人のターゲティング): YDAの機能
    •  ユーザーの検索履歴を利用して、関連する広告を表示するターゲティング手法。
    •  例:××を直近○日以内に検索したユーザー: 具体的なファクトベース
  • コンテンツターゲティング:(面のターゲティング)……GDNの機能
    • 特定のコンテンツやウェブページに関連する広告を表示するためのターゲティング手法。例えば、あるスポーツ用品メーカーが広告を出稿する場合、関連するスポーツのウェブサイトやブログに広告を表示することができる。
    • 例:ゴルフが好き、保険に興味がある……抽象化されたデータ

このふたつを並べたのは、前述のITPによる人のターゲティングに対する厳しい規制が関係しているからです。この規制が原因でサーチターゲティングやリマーケティングリストが使いづらくなってきました。

しかしコンテンツターゲティングは規制の対象外です。個人のプライバシーを利用するというよりも、あくまで「特定の嗜好性を持った集団のデータ」と「特定の属性が含まれているコンテンツの広告枠」をマッチングしているにすぎないからです。自動化の波で面のターゲティングは時代遅れになりつつありましたが、ITPによる規制が作用し、ふたたび注目されてきています。

 なお人のターゲティングと面のターゲティングを掛け合わせた「サーチターゲティング×コンテンツターゲティング」も実施されています。ただしITPの規制が入ってきているので、掛け合わせるとユーザーリストの母数も小さくなってしまいます。

自動プレースメントと手動プレースメント

面のターゲティングでブランドイメージを守る手法として、自動プレースメントと手動プレースメントがあります。

  • 自動プレースメント: 現在の主流。全自動だが、ブラックリストをつくって除外すべきものを外す必要がある。
  • 手動プレースメント: 手動でサイトの広告枠やアプリの広告枠を指定。ホワイトリスト(特定の配信先)のみ許可する。

配信される面の広さは圧倒的に自動プレースメントが上回っています。自動プレースメントを利用しつつ、出したくないところはブラックリストをつくって止めるという形が一般的です。

ブラックリストの例:アダルトサイト、反社団体、宗教団体など

ただし「自動プレースメントではブラックリストを管理しきれない」という話になってくると、「手動プレースメントでホワイトリストを運用していこう」と考える広告主もいます。どちらを選ぶかは広告成果とのバーターのような側面があります。

テキスト広告、動画広告、画像広告の違いを知る

検索連動型広告がテキストのみで構成されているのに対し、ディスプレイ広告の構成要素は広告枠(面)次第でじつに多様です。

  • 検索連動型広告=テキストのみ

表示される広告の構成要素(テキスト、静止画、動画)は、広告枠を持つメディア側の設定次第です。テキスト、静止画、動画それぞれの情報量は大きく異なります。

 (フォーマットと成果)

  • テキストと静止画:さまざまなところで目にするので成果が反映されやすい。
  • 動画:成果に直結。ブランディングなど副次的効果も期待できる。TVCM的、WebCM。

 一般にテキストよりも画像、画像よりも動画の方が印象に残りますが、サイズによっても見え方が変わってきます。例えば記事広告のようにテキストと写真でページ全面を埋めた場合と、小さな動画の広告とでは、どちらの方がインパクトがあるでしょうか? このように出稿したいメディアに合わせて、どんな素材を用意するべきかを広告主は考える必要があります。

動画広告

YouTube、Instagram、TikTokといったSNSの普及で動画がずいぶん身近になりました。主だったSNSすべてに動画が配信できるようになったので、今まで静止画で事足りていた広告も動画を使った方が成果が出やすくなってきています。

ただし動画広告が身近になり製作費が安くなったとは言え、動画1本作るのはたいへんです。まだまだコスト面では厳しいと言えます。そのせいか動画広告はSNS中心の傾向があり、ディスプレイ広告では、まだこれからという状況です。

Googleアプリキャンペーンを知る

Googleアプリキャンペーンは自社アプリの普及を重点的に行いたいときに利用するサービスです。ユーザーが広告をクリックすると、Google Play StoreやApp Storeに遷移します。一般の広告と異なる点は、広告枠に「インストール」という文字が表示されることです。広告の目的がアプリのインストールである場合は、アプリキャンペーンを使いましょう。

設定はほぼ全自動で「どのアプリを宣伝するか」という部分を別とすれば、設定できる部分はごくわずかです(地域や言語程度)。

 (アプリキャンペーンの掲載面)

  • Google Play
  • Google 検索ネットワーク
  • Google検索のDiscover
  • GDN
  • YouTube

Googleが持っている全ての広告枠をつかって配信することが可能になっています。

関連する他社の広告として、Appleが持っているApp Store内のアプリ用広告枠があります(当然のことながら、Googleの広告枠であってもApp Store内のアプリのインストールを仕向けるような広告が出稿できます)。

気をつけなければならない点が2点あります。

1)アプリストアでの情報が充実していなければ、アプリストア・キャンペーンはうまく機能してくれません。設定が全自動なのと引き換えに、GoogleのシステムはGoogle Play、もしくはAppleのAppStoreを参照してアプリキャンペーンの広告を生成・配信します。したがって自社のアプリ情報が充実している必要があります。

2)アプリキャンペーンでは、課金すれば必ず自社のアプリの広告が表示されるわけではありません。アプリ内容や広告アセットの関連性をGoogleが判断し、表示の順番もパーソナライズされます。オークション形式での入札ということもあり、他社の広告が表示されることもありえます。

YouTubeに出稿する

ここで予備知識としてYouTube広告についても軽く触れておきましょう。

YouTube広告はGoogleの広告メニューのひとつです。ディスプレイ広告内の動画(Webサイトやアプリ内で配信されます)がGDNから出稿できるのに対し、YouTubeの動画広告はYouTube用の動画キャンペーン経由でしか出稿ができません。YouTube広告はGDNの管轄外なのです。

YouTube広告で必要な施策は、以下の4点に集約されます。

  • 面:デバイス、トピック、キーワード、プレースメント(YouTubeの特定のチャンネル)。
  • 人:ユーザーリストの設計(属性、興味関心、YouTube動画広告へのアクションなどターゲティングを駆使する)。
  • クリエイティブ:ひじょうに重要。広告主の腕の見せ所。変数として大きい。
  • 入札:検索連動型広告以上に自動化が進んでいるので対応が必要。

次の記事

成果を改善する

新着記事