リスティング広告(検索連動型広告)の設計と運用フロー|①キーワード選定について
吉岡 佑
佐賀県出身。GMO グループ、アナグラム株式会社などの広告運用専門会社にて大規模広告の運用に従事した後、2021年に当社に参画。
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広告運用の自動化時代で、人間が考えるべきこととは?
はじめに
本記事では、前後半に分けてリスティング広告のうち検索連動型広告の設計と運用についてお話します。
自動化の進展により運用の様相が大きく様変わりしたのがこの分野です。
しかしキーワードや広告文を中心に普遍的な鉄則は変わりません。
アカウント設計など時流に応じた変化も交えてご説明します。
前編となるこちらの記事では、主に「キーワード選定」について解説します。
設計①:まずはキーワードを考える
①-1:キーワードはターゲティングそのもの?
まずは、検索連動型広告に用いるキーワードを考えましょう。
キーワードを決めることは、言うなればターゲティングそのものと密接に関わります。
というのも、「ある特定の語句を検索した人に広告を表示する」という形式である以上、当然そのキーワードは広告を見せる相手を絞り込む役割を持っているため です。
ですからまずターゲットを明確にした上で、「相手が何を検索するか」という部分に合わせて、キーワードを考えていく必要があります。
ひとつのキャンペーンで設定可能なキーワード数は Google とYahoo! で異なります。Yahoo! は200。Googleはほぼ無限です。
キーワードの数を増やせば増やすほどターゲットは広くなり、少なければ少ないほど狭くなります。
検索連動型広告は検索されなければ表示されないので、絞り込みすぎると広告は効果を発揮しません。
しかし、逆に広げすぎると、関連性の薄いターゲットにも広く浅く配信する結果となり、十分な成果を挙げる前に広告予算を使いきってしまうため、注意が必要です。
キーワードの設定は基本的に人力で行いますが、「Googleキーワードプランナー」などのツールを使って効率を上げることが可能です。
検索されやすいキーワードでリーチを広げ、広告を露出する機会を増やさなければ出稿しても効果は上がりません。 キーワードの選定は重要です。
①-2:関連キーワードの候補を確認できるキーワードプランナー
キーワードの選定にあたり、定番となっているツールとして、Googleのキーワードプランナ ーというサイトが存在します。
キーワードプランナーはキーワードの検索需要を「月間検索ボリューム」という形でチェックできるツールですが、関連するキーワード候補を調べることもできます。
https://ads.google.com/intl/ja_jp/home/tools/keyword-planner/
また広告掲載結果の予測データを確認する機能も搭載されていますので、実際に出稿した場合の表示回数、クリック率、平均クリック単価(入札の相場)などをシミュレーションすることも可能です。
なお、リスティング広告用に用意されたツールであるため、アカウントさえ開設すれば誰でも使えるものの、実際に広告を出稿していないと一部の機能が制限されます。
また、Googleトレンド も同様の用法で活用できます。
https://trends.google.co.jp/trends/
GoogleトレンドはGoogleが一般に公開しているツールで、キーワードの検索需要の推移をグラフで調べることができます。さらに関連するキーワードとの比較機能もありますので、大いに参考になることでしょう。
キーワードはつねに見直し続ける必要があります。
出稿後も予算との兼ね合いのなかでリーチ(広告を見たユーザー数)、そしてフリークエンシー(1人のユーザーが広告を見た回数)を確認しながら、ブラッシュアップを続けてください。
設計②:広告文と自動化-RSAとDSAを知る
②-1:自動化と関わりが深い広告文の機能
現在のリスティング広告は自動化が進んでおり、HAGAKURE※などにアカウント構造を合わせ、必要な数の広告を作るという形が前提になっています。
特に自動化と関わりが深い広告文の機能として、レスポンシブ広告(RSA:Responsive Search Ads) と 動的検索広告(DSA:Dynamic Search Ads) があります。
RSAが 「広告の見出しと説明文を多数設定しておくと、成果の良い組み合わせを機械学習して配信してくれる機能」 なのに対し、
DSAは 「LPのサイトURL(とサイトの説明文)を設定すると、LPの内容から自動的にキーワードと広告文が生成される機能」 です。狙うリーチを広げ配信先を増やすことができます。
では広告主にとってRSAとDSAのどちらが望ましいのでしょうか?
基本的には自分で広告の文面を設定していくRSAの方が理想的ではありますが、業種にもよります。
次の節では、DSAが有用となる例外的ケースについて解説します。
②-2:DSAが必要なケースとは?
では、DSAが必要となるケースはどのようなものが想定できるのでしょうか。
具体的なシチュエーションを交えて解説します。
【ケース1】ネット通販でエアコンを買いたい場合
以下のようにふたつの広告が並んで表示されていたとします。
[ エアコン_ヨドバシ.com ]
[Amazon.com(Amazonトップページ)]
もしユーザーがエアコンを検索している場合、クリックしたくなるのはエアコンの文字を含んだ「エアコン_ヨドバシ.com」の方でしょう。
しかし、このときもしAmazonも DSAを導入していたら「Amazon.com」ではなく「Amazon.com_エアコン」と表示する ことができます。
【ケース2】家電の型番を検索
エアコンの話をつづけてみます。
通販サイトで型番を検索するユーザーは既にエアコンのことを良く知っています。
もしかしたら、店先で商品を見て値段を検索する行為、俗に言うショールーミングを行っているのかもしれません。
そんなユーザーが以下のような広告を目にしたとします。
[ Amazon.com(Amazonトップページ) ]
[ 202203 日立 エアコン ヨドバシ ]
ユーザーは型番が書かれている後者をクリックしたくなるはずです。
しかしカタログ上の膨大な型番をすべて手作業で登録文として登録するのは膨大な手間がかかります。
手作業で広告文を設定していたらページの生成に追いつきません。
このように アイテム数が極度に多い場合 は、作業を自動化してくれるDSAが便利です。
家電に限らず、Amazonや楽天市場のように 多品目に渡って商品を扱っているウェブサイトの場合、DSAを選ばない理由はありません。
【ケース3】網羅性を高めたい
もしコワーキングスペース大手のWeWorkが広告を出稿しようとしたとしましょう。
「コワーキングオフィス」という検索語句に対して「コワーキングならWeWork」という広告文を返すと設定します。
しかしこの設定でリーチできるユーザーは限られてしまいます。これからコワーキングスペースの利用を検討している人たちは何と検索するでしょうか?
仮に「コワーキング活用が進む企業」に関するコンテンツをつくってLPに設定したら、キーワードを自動生成するというDSAの機能で「コワーキング活用が進む企業とは」のような広告文が自動生成されます。
こうすることでより潜在的で、広告主が想定していなかった幅広いユーザーを掘り起こせる可能性 が開けます。
②-3:DSAが不向きなケースとは?
逆に以下の場合、DSAは向いていません。
- LPのSEO対策が不十分(ウェブサイト内の記事でテーマや語句が最適化されている場合に、最も効果を発揮するので)
- 大部分のサイトのアクセスにログインが必要
- クリエイティブを細かくコントロールしたい
DSAの注意点として、意図しないキーワードが反映されないように、ネガティブ要素のあるキーワードはきちんと除外設定すべきことが上げられます。(後半の記事で詳説します。)
②-4:RSAの設計難易度~広告文の網羅性とGoogle広告の仕組み~
RSAには 「広告文の内容が網羅的でないと、どんなにキーワードを網羅していても意味がない」、逆に「広告文が網羅的であったとしても、キーワードが部分的だと表示機会が得られない」 という性質があります。
RSAではどんな検索語句に対してどの広告を表示するか、検索意図に近しい広告文を登録リストから検索します。
そこに紐付いたキーワードが検索され、広告が部分一致(後述)で選択されます。
いくらキーワードの数を無数に登録していても、広告文がキーワードを網羅していなかったら表示されることはありません。
キーワードも広告文もかなりのバリエーションが必要で、なおかつ両方とも網羅的(あるいは適切な範囲)に設定する必要があります。
これを自社で内製化するのはなかなか大変です。
おまけに外部から努力が見えづらいので評価が難しいという問題があります。
これが代理店利用の一因になっています。
設計③:アカウント構造の基本設計を知る
③-1:なぜアカウントの構造を考慮するべきなのか??
広告運用において、アカウント構造を考慮するべき理由は、広告ランクへの影響が出るため です。
リスティング広告の掲載順位は、広告ランクで決まります。
広告ランクは、「入札価格×広告品質」 で決定されます。
この原則を踏まえると、広告品質がよければ、入札額が低くても、より上位に掲載されます。
このとき広告品質を握る鍵となるのが、アカウント構造の善し悪し です。
そして優れたアカウント構造としてGoogleが推奨しているのが 「Hagakure」 という可能な限りシンプルな構造です。
HAGAKUREとは、検索連動型広告におけるアカウント構造を指します。
この「1グループに対して複数のキーワードを設定する」という基本構造を理解して、アカウントを設計しましょう。
また現在では、HAGAKUREという基本的なアカウント構造理論をベースに、自動運用・データ活用の有効性向上を期して提唱されたGORINと呼ばれるフレームワークが生まれました。
またこの二つを踏まえて、MUGENと呼ばれる、効率化と効果拡大を追及する発展的な運用体系が確立しました。
現在リスティング広告のアカウントは 最初からMUGENの考え方に則ってつくることが前提 となっています。
Hagakure、GORIN、MUGENについて、詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
https://k-hatchu.com/article/hagakure-gorin-mugen
③-2:GORIN、MUGENを用いたリーチ最大化~ユーザーリストを活用したリマーケティング~
リスティング広告の大きな強みのひとつが、ターゲットを選んで配信できることです。
どんなユーザーに出すかを決めて配信できるので、無駄打ちを軽減できます。
そうした効率的なターゲティング手法の一つが、ユーザーリストの活用です(ユーザーリストはGoogleでの呼称で、Yahoo!では「ターゲットリスト」と呼ばれています)。
マッチタイプやDSAの導入と並ぶ、GORINやMUGENのリーチ最大化の手段です。
このユーザーリストは、どのように作られるのでしょうか。
特定のウェブサイトを訪れると「Cookieの許可」を求められることがありますよね。
そこで許可を出すと、サーバー上にユーザーの行動履歴が蓄積され、リストが作成されます。
これがユーザーリストです。
このリストをキャンペーンや広告グループに関連付けることで、見込み確度の高いユーザーに広告を配信できるようになります。
たとえば「サイト訪問30日以内のユーザーリスト」に向けて刺さる広告を配信することが可能です。これがユーザーリストを活用したリマーケティングです。
元々はディスプレイ広告向けの技術でしたが、2013年より検索連動型広告でも使えるようになりました。
このリストを元にRLSA(検索リマーケティング #GORINで前述)やIMSA(検索広告向け購買意向の強いユーザー層に広告表示する手法※)を実施したりできます。
※IMSA:「In-Market Audiences for Search Ads」の略称で、ユーザーが訪れたサイトや検索行動などの履歴を元に、商品の購入確率が高い層に広告を表示する技術。IMSAを利用することで、特定のカテゴリのうち、どのユーザーがコンバージョンに貢献しているのか確認できる点がメリット。ターゲットの絞り込みや入札単価を調整する機能を持つ。
Googleのアカウントにはたくさんの広告アカウントが紐づいています。
自社の広告アカウントのデータのみならず、他社の広告アカウントのデータも全てGoogleが持っているのです。
その結果Googleが持っている興味関心のユーザーデータと広告のデータが紐づくことで、ユーザーごとのターゲティング精度が高まります。
この膨大なデータを後ろ盾に、自社に関心を持つ層を狙い撃ちするのがユーザーリストを活用したリマーケティングです。
設計④:マッチタイプを知る
④-1:マッチタイプとは?
リスティング広告はどんな検索語句に対して広告表示するかを設定するためにキーワードを登録しますが、登録キーワードと検索語句の一致度に応じて、広告の配信範囲を決定できる設定が「マッチタイプ」です。全部で3種類あります。
④-2:ターゲットの拡大幅をマッチタイプでコントロールしよう
マッチタイプのなかでターゲットにピンポイントで広告を配信できるのは完全一致です。しかし想定内の露出で収まってしまい、広告が拡散する余地がありません。
そこでフレーズ一致や部分一致を取り入れることで、幅広く配信できる設定にします。
そのほかにも送り仮名の違い、変換ミス、省略形、表記違いなどのバリエーションも盛り込み、ターゲットの取りこぼしをなくしてクリック率を高めます。
④-3:最も用いられるのは「部分一致」
マッチタイプにおいて適用される機会が最も多いのが、部分一致です。
この部分一致の選定は、自動化が進む部分でもあります。
たとえば「プレゼント 購入場所」でキーワード登録していた場合、以下のようなキーワードでも
広告が表示される可能性があります。
登録キーワード: プレゼント 購入場所
反応する可能性がある検索語句: 贈り物 デパート、プレゼント 誕生日 通販、贈答品お勧め、……
前述したような自動化は、GORINとMUGENの要素である、DSA(動的検索広告)における機能の一つです。
DSA(動的検索広告)は、キーワードを設定したら、上記のように意味合い(検索意図)を解釈し自動で反応する語句を創出してくれます。
人間が思いつかないような語句をキーワードに充てがってくれることも少なくありません。
Google検索のうち、過去に1度も検索されたことのないワードが1日の検索数全体の2割を占めるそうです。
この日々の検索データの蓄積が、広告主の想像の範囲を超えたキーワードの提案につながっています。
テクノロジーの力で自分たちだけでは思いつかないキーワードを探していきましょう。
一見キーワードから離れているように見えても、機械は検索意図を汲み取っています。
人が設定するよりも機械に任せた方がよい成果に結びつくケースは珍しくありません。
その結果、自動運用を活用することによって手を動かすことなくターゲットを適切に拡大することができるのです。
ときにはライバルの企業なり店舗なりの顧客に、思わぬルートから自社の商材をアピールする機会も生じます。
音声検索と新しいキーワードの発見
近年、スマートフォンやスマートスピーカーをつかった音声検索が一般化しました。
音声検索では口語表現で検索することが多く、フレーズ一致や完全一致がうまく機能しないことがあります。
検索行動の変化によって、マッチタイプの更なる進化が期待されているのです。
既にGoogle検索のサジェスチョンをつかったキーワード探しは一般化していますが、これからはChatGPTなどの生成系AIを使ったキーワード立案や広告制作がスタンダードになると考えられます。
機械による思わぬ語句の提案は、ますます増えていくでしょう。DSAによるターゲットの拡張を有効活用しない理由はありません。
おわりに
本記事ではリスティング広告の設計と運用について、キーワード選定というポイントを中心に解説しました。
[次の記事]では、入札と改善についてお話しますので、合わせてお読みください。
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